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女子サッカー・新井翠選手「一生懸命に打ち込んでいる自分が一番自分らしい」【前編】

ニッパツ横浜FCシーガルズで活躍するゴールキーパー、新井翠選手は、背番号1を背負い、日々の努力を重ねています。平日はチームのオフィシャルトップパートナーである病院で働く一方で、アスリートとしてもキャリアを築いており、リーグ優勝を目指しています。
前編のインタビューでは、新井選手のサッカーを始めたきっかけ、海外での経験に加え、彼女の人柄と日々の生活にどのように影響しているかに焦点を当てたインタビューを行いました。
【写真提供:ⓒYOKOHAMA FC SEAGULLS】

バスケからサッカーへ転向

【写真提供:ⓒYOKOHAMA FC SEAGULLS】

新井のサッカーキャリアは意外な転機で始まった。
彼女は高校入学まで、小学生のころから続けてきたバスケットボールでの将来を想像していた。
実際、小学校の卒業文集には「バスケット選手でオリンピックに出る」と記しており、その夢は両親も知っていた。

「高校でのスポーツ生活は、バスケットボール一筋で過ごすつもりでした。小学生の頃から中学生までバスケをしていた私は、高校でもその道を進むはずでした。しかし、高校での仮入部時、他の中学から来たトッププレイヤーたちを見て、「これはやっていけない」と感じ、自信を失いました」と、新井は振り返る。

その心境の変化を両親に正直に話すことができず、「飽きた」と誤魔化した。
「特にその時の母の悲しそうな表情は忘れられません。もう二度とこんな思いをさせたくないと決意しました」と新井は語る。

そんな中で迎えた高校の新入生歓迎オリエンテーションで、新井の心を動かしたのが女子サッカー部の先輩たちだった。
「先輩たちのきらきらと輝く姿を見て、「私もここで3年間しっかりと頑張りたい」と思い、サッカー部に入部することを選びました」

この決断が新井にとって新たな道を切り開き、高校3年間を女子サッカー部で過ごすことが後のキャリアに大きな影響を与える。これが、新井がサッカー選手としての道を歩む第一歩となった。

 

サッカーの面白さは「戦略的分析と心理戦」

サッカーの魅力は、その戦術的な深さと心理戦にある。
プレイヤーたちは単にボールを蹴るだけでなく、相手の動きを予測して戦略を練りながらプレイをする。各プレイヤーの戦略が試合の流れを左右し、瞬間的な駆け引きがコート上で行われている。
また、サッカーは団体競技の性質上、個々の能力が直接勝利に繋がるわけではなく、逆に一人のミスがあっても、チーム全体の努力で勝つことが可能だ。
これが団体スポーツの独特の特性であり、共に目標に向かって試行錯誤を重ねる過程がサッカーの大きな魅力の一つである。

「サッカーを始めて感じたのは、バスケットボールとは異なる楽しみ方です。バスケットボールには明確なサインプレーが存在しますが、サッカーはその場の状況に応じた戦略や心理戦が重要になります。例えば、相手を誘導するための” 餌 ”を撒いて、相手がそれに食いついた瞬間の達成感は格別です」
サッカーは試合時間が長く、相手の攻撃パターンを読みながらダイナミックに動くことが求められるため、攻撃から得点に繋げるまでのプロセスが長く、その間の戦略が成功したときの喜びは格別だという。

「サッカーは手ではなく足を使うスポーツのため、ゴールまでボールを運ぶのに時間がかかります。バスケットボールと違い、頻繁に得点が逆転することは少なく、サッカーでは1点の重みが大きいです。試合中に生じる様々な状況をどう切り抜けるか、それを”分析”するのが面白いです。特に、相手のプレッシャーを受けている時には、「どうすればこのプレッシャーを攻撃に変えられるか」を考え、「今なぜこの状況にあるのか」「原因は何か」と冷静に問題を分析することに楽しみを見出しています」と新井は熱く語った。

 

「全力でやらないと自分の課題や改善点が分からない。だから日々をしっかり頑張ること」

【写真提供:ⓒYOKOHAMA FC SEAGULLS】

高校時代、一緒にトレーニングを行った外部GKコーチから受けたアドバイスは、新井にとって忘れられない教訓となった。

「シュートを止められない」と軽んじて練習していた際、コーチはすぐにそれを見抜き、「しっかり練習しないと、自分の課題が何かも見えてこないよ。いつも教えてほしいばかりだけど、基本的なことをちゃんとやっている?まずやるべきことをちゃんとやりなさい」と、新井にストレートに指摘をした。

「自分が思うように上手く練習がいかない時、よく「不貞腐れるな」とコーチから言われていました。
” 不貞腐れていても何も良くならない ”というアドバイスは、社会人になっても心に留めています」と新井は語る。

また、高校時代に特に記憶に残っているのは、外部GKコーチと行った『カクテル』と名付けられたフィジカルトレーニングだ。
この名前は、トレーニングの強度が高く、体力を極限まで使い果たすため、強いカクテルを飲んだ後のように身体がふらふらになることから来ている。

コーチがゴールラインからハーフラインぎりぎりまでボールを蹴り、新井に「取ってこい!」と指示をする。
ボールがハーフラインを超える前に全力で取りに行き、コーチのいるゴールラインまで持っていく。その間に次のボールがまた蹴られるので、それも追いかける。この一連の動作を合計6回繰り返すフィジカル強化メニューだ。
「このトレーニングは本当にしんどかったです(笑)でも同時に楽しくもあり、” 絶対に上手くなる ”という確信が持てた一番印象深いトレーニングでした。コーチはこのトレーニングにはどんな意味があるのか、その意図をいつも丁寧に説明してくれたので、練習は辛いけど練習内容に対して理不尽さを感じたことはありませんでした」

この体験が新井の成長にとって重要な要素となり、サッカー技術だけでなく、メンタル面でも大きく成長する助けとなった。

 

日本からオーストラリアへ「刺激がほしかった」

【写真提供:ⓒYOKOHAMA FC SEAGULLS】


大学を卒業後、ニッパツ横浜FCシーガルズからのオファーを受けて入団し、3年が経過。
定期的に試合に出場し、病院での仕事にも慣れ、仕事を楽しんでいた。しかし、新井は「何か刺激が足りない」と感じ始めていた。

「その時、私は” 何か新しい刺激が欲しい ”と感じていました。自分の中で何か刺激になるもの、変化が欲しくて、そんな気持ちをぶち壊す=海外だ!っていう単純な理由で、海外へ挑戦することを決めました(笑)」

新井はもともと海外に興味を持っており、「どうしたら海外でプレーできるか」ということを常に考えていた。

「どうしたら行けるのか、その答えを見つけたのは、堀江貴文の本を読んだことがきっかけでした。
それが、” 行動することの重要性 ”を教えてくれました。その後、大学の男子サッカー部の先輩が海外のエージェントをしていることを知り、その先輩にアプローチをし、オーストラリアへ行くことを決めました。渡航する前は家族にも、仲間にも相談せずに突然、「1ヶ月後に日本を離れる」と告げました。今振り返ると、行動する前にもっと情報を集めてから動くべきだったと思います(笑)」と、笑いながら振り返った。


新たな刺激を求めてオーストラリアへ渡ったものの、海外での生活は予想以上に困難だった。
「海外での生活は今までの経験の中で最も困難でした」

日本では当たり前だったことが、海外では通用しないため、文化の違いに直面したという。

「当時、私は英語がほとんど話せなかったため、特に苦労しました。現地の人たちは「あいつは何も話さないけどいつもニコニコしているな」と思っていたと思います。その結果、どこか軽く見られていると感じ、自分から積極的にコミュニケーションを取らない限り、相手からは話しかけてこなかったです」
オーストラリアでは、日本のように相手の気持ちを察する文化がなく、自分の考えをはっきりと言葉にして伝えることが求められるため、英語が話せないと、人とコミュニケーションを取ることは難しい。
英語が話せずコミュニケーションには苦労したが、一方で日本特有の本音と建前の文化がないため、海外では人々がはっきりと意見を言うことが新鮮と感じていた。

この海外経験は新井のサッカー観だけでなく、人生観にも大きな影響を与えた。

「他人の目を気にせず、自分が幸せであることを優先するようになりました。また、自分の望む方向に進むことの大切さを学びました。新しいことに挑戦する際、経験がない人からは否定的な意見が多く寄せられますが、経験者からは支持されることが多いです。これらの経験から、自分の人生において大切な決断をする際は、他人の意見に流されず、自分の本心に耳を傾けることの重要性を学びました」

オーストラリアで1年間の経験の後、コロナウイルス感染の拡大により帰国。
そのタイミングでAC長野パルセイロ・レディースからオファーを受け、入団し2年間プレーをした。
その後再びニッパツ横浜FCシーガルズへ復帰。
「これまで支えてくれた人たちに恩返しをするために優勝を目指す」という強い動機から、日々の練習に励んでいる。

 

「本気で取り組めば、手を差し伸べてくれる人はいる」

【写真提供:ⓒYOKOHAMA FC SEAGULLS】

「本気で何かに取り組む姿勢は、見ている人にちゃんと伝わります」

新井にとって、この考えが確信に変わった出来事があった。

オーストラリアで生活していた時、突然住む場所を失い、途方に暮れていた。
「チームメイトが「部屋を一つ空けるから、一緒に住もう」と声をかけてくれ、今でも交流が続いています」
新井は彼女に何か恩返しをしたいと伝えたところ、
「お礼はいらないよ。その代わりに、翠がただ周りの人に優しくすること。そうしたら世界はもっとハッピーになる」と言われ、その言葉は今でも新井の心に響いている。
部屋を提供したチームメイトは、礼を求めてそうしたのではなく、新井の本気な姿勢を見て自然と手を差し伸べたのだ。

この経験から、新井は「本気で取り組むことは、周囲を動かす力を持っている」という教訓を学んだ。

 
後編はこちら。


新井 翠 / Midori Arai
1993年8月12日生まれ。埼玉県出身。
ニッパツ横浜FCシーガルズ所属のゴールキーパーで、2024年にはキャプテンを務める。
愛称は「みど」「あらちゃん」で、チームのムードメーカーとしても知られる。
小学生から中学生時代にはバスケットボールで活躍し、高校でサッカーへ転向。高校時代から顕著な成長を遂げ、国士舘大学在籍時には1年生ながらGKとして関東女子リーグに出場。その後、ユニバーシアード日本代表に選出され、第28回夏季ユニバーシアードに出場する。現在はリーグ優勝を目標に掲げ、女子サッカーの認知度向上のためのPR活動にも力を入れている。
ニッパツ横浜FCシーガルズ公式サイト:https://seagulls.yokohamafc-sc.com/


machida 編集者
デジタルクリエイティブ会社に勤務。女子サッカーで15年間活動した後、現役引退後ボディーメイクに奮闘中。自分に合った健康的な食事や日々の過ごし方を模索中。

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