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ボクサー・津端ありさ「デュアルキャリア:看護師とボクサーの二刀流」【後編】

 

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看護師とボクサーの二刀流生活「周りのサポートがあったから両立できた」

勤務するクリニックでの様子・練習中の様子 【写真:本人提供 / 町田】
   

看護師とボクサーを両立させる生活は、容易なものではなかった。

「総合病院で働いていた時は、夜勤の前後にランニングやジム練習をこなしていました。職場の理解と協力に支えられ ”津端を定時に帰れるようにしよう” という配慮があったため、夜勤明けにもフィジカルトレーニングを組み入れることができました」
職場の柔軟な対応と協力があり、仕事とトレーニングの両立を可能にしていた。

しかし、ボクシングの練習による疲労が心体に重くのしかかり、
「練習の疲れを理由に看護師としてのミスをしてはいけない」というプレッシャーを常に感じていた。「体調の管理が特に難しい夜勤が含まれる勤務体制では、睡眠不足や体の疲労が蓄積し、それでもボクシングトレーニングを続ける日々でした。そのすべてを乗り越えられたのは、同僚たちの理解と協力があったからこそです」
柔軟な職場環境と周囲のサポートがあってこそ、看護師としてもボクサーとしても成長を続けることができたという。

その後「オリンピックを目指す」という強い思いから、総合病院を辞め、現在はクリニックでデイケア業務に従事している。
「総合病院を辞める際、同僚たちは私の決断を全力で応援してくれました。次の職場が決まっていなかった時期もありましたが、「何とかなるだろう」と前向きに考えていたところ、現在の職場からの誘いを受けました」

現在は、ボクサーとしての活動を優先し、仕事は週2回、10時から16時まで勤務している。
日々の生活のルーティーンは、朝はランニングから始め、その後家に一旦戻ってからクリニックへ出勤。帰宅後は、夜18時から21時までジムでの練習し、週6日のジム練習に励んでいる。
「休日でもランニングは欠かさず、体が疲れていても外に出れば自然と動き始めるのは、学生時代に培ったトレーニング習慣のおかげです(笑)」と言い、トレーニング漬けの日々を送っている。

 

「応援してくれる人たちに感謝を伝えたいから頑張れる」

患者さんから貰ったお守り 【写真:本人提供】

「看護師としての経験が、私のボクシングキャリアにも大きな影響を与えています。職場の同僚、上司、そして患者さんたちがボクシングでの私の成果を心から喜んでくれ、その応援が私のモチベーションの源となっています。 ”応援をしてくれる人たちに恩返しをしたい” という想いが強いです」
この想いが津端が日々の努力を続けられる源になっている。

応援をしてくれている患者さんの中でも、特に印象的だった出来事がある。
総合病院に勤務をしていた頃、担当していた患者さんが津端へお守りを作ってくれたことだ。
「その患者さんは「夜眠れなかったからお守りを作ったんだけど、作っていると心が落ち着いて、眠れない夜の苦痛が和らいだ」と話してくれました。お守りには、私のミドルネーム「ティアレ」にちなんだ花が飾られていて、すっごく嬉しかったです」と嬉しそうに語り、そのお守りは今でも大事にしている。

「病院での勤務中に患者さんから元気をもらい、そのエネルギーをリングでのパフォーマンスに変えることができています。また、ボクシングを通じて得た精神的な強さや体力を、看護の現場で患者さんへのエネルギーとして還元しています」
このように、看護師としての役割とボクサーとしての役割は、互いに影響を与え合いながら、津端の人生において重要なバランスを保っており、それぞれの役割が新たな力を与え、日々の挑戦を乗り越えるための大きな支えとなっている。

 

看護師とボクサーで共通の教訓は「自分に正直」

看護師とボクサーは、表面上は全く異なる2つのキャリアだ。

「私が学んだ最も大切な共通の価値観は ”自分に正直に生きる” ことです。過去にどちらの道を進むかで悩んだとき、私は後悔のない選択をすることを心がけました。その結果として選んだ道に全力を尽くすことで、選ばなかった道への後悔を抱かずに済むよう努めてきました」
ボクサーとしての活動では、自分に正直に、ひたむきに取り組み続けることによって、ボクサーとして多くの応援を得られるようになった。

同様に、「看護師としては、患者さんとの関係においても正直さが大切です。心を開いて患者さんの話に耳を傾け、真摯に対応することで信頼を得ることができ、結果として患者さんからの感謝の言葉や笑顔が増えました」

この経験から、自分の正直な姿を周りの人はしっかりと見てくれていると実感した。

 

東京オリンピック開会に登場した「看護師ボクサー」

【写真:町田】    

           
2021年、東京オリンピックへのラストチャンスとして世界最終予選に臨む予定だったが、コロナ禍の影響で大会が中止となり、東京オリンピック出場への道は突如閉ざされた。

夢への道が断たれた瞬間、津端の中には強い葛藤と失望が渦巻いていた。
しかし、その絶望的な時期に、思わぬ一本の電話が津端の運命を再び動かすことになる。

「ロシア国際大会から帰国した直後、「東京オリンピックの開会式に出演しませんか?よかったら一度お話をしませんか?」とオファーの電話がありました」
津端はこの予期せぬオファーに、心底驚いた。

ただ、医療従事者としての役割を担いながら、オリンピックの開会式への参加には葛藤があった。
コロナ禍で報じられるニュースは多くがネガティブなものが多く、「開会式に参加しても良いのか」という疑問が生じた。
同時に「スポーツが社会に希望をもたらす力を持つ」という信念も津端の中にはあった。
この葛藤を乗り越え、オリンピック開会式の舞台に立つことを決意した。

開会式での津端の役割は、一人でトレッドミル上を走るというもの。
指示はシンプルで、「自分の本当の姿を表現してください」とのこと。
「孤独なトレーニングを続けてきた私にとって、この演技は自らの経験と感情を舞台上で表現する絶好の機会でした。総合病院を辞め、全力で東京オリンピック出場を目指す決意を固めた矢先にコロナの影響で予選がなくなってしまい、「もし挑戦して出場できなかったとしても諦めがついた。しかし、挑戦する機会すら奪われたことが悔しく中々諦めがつかなかった」というのが、その時の正直な気持ちでした。自分が選んだ道を進んできたからこそ、どうしようもない状況に対するもやもやした気持ちが消化できずにいました」
そのため、この複雑な感情をそのまま演技に込めて表現したという。

演技後、反響は津端の元に大量のメッセージが届いた。
「多くのメッセージが寄せられ、医療従事者やかつての同僚や知人から、「本当にかっこよかった」「同じ医療従事者として励まされた」「オリンピックに出て欲しいと思っていたが、それが叶わなくても津端の姿に感動した」という声を数多くいただきました。また、私の演技を見たことで、新たに看護師ボクサーを目指す人も現れ、「私も看護師ですが、津端さんを見てボクシングを始めました」というメッセージが届いてすごく嬉しかったです」
多くの声援を受け、「開会式に出ることで、少しでも多くの人々に元気を与えることができたのではないか」と実感した。

パフォーマーとしてオリンピックの舞台に立った経験は、”競技者として同じ舞台に立つ” という目標への意欲を一層高めた。
その熱い思いが、パリオリンピックへの挑戦へと繋がっている。

 

看護師としてボクサーとしての将来

勤務するクリニックでの様子【写真:本人提供】

         
「今後は、現在のクリニックでの経験を活かし、運動療法の普及に力をいれていきたいです」


「現在、看護師としてメンタルケアの専門知識とボクサーとしてのトレーニング技術を組み合わせ、メンタルヘルスの支援とフィジカルトレーニングの指導を行っています」
津端が勤務しているクリニックでは、治療の一環として運動療法を取り入れており、
このアプローチは、多くの患者さんがメンタルの不調を感じている中で、「運動を通じて楽しさや達成感を感じる」というポジティブな反応を引き出すことができる。
また、患者さんと一緒に体を動かす中で「楽しかったです!」という声が、仕事の大きなやりがいとなっている。


「デイケアでの治療に運動療法を取り入れている私の現場から、社会復帰後も継続してボクシングを楽しむ患者さんが出ることが私にとっての大きな喜びです」
実際に、社会復帰を果たした元患者さんの中には、ボクシングジムに入会し、ボクシングを続けている人も少なくないそうだ。

看護師とボクサーという2つのキャリアから得た知識と経験を活かした、社会貢献を目指していきたいと語った。

 

今回のインタビューで伝えたい「自分に正直でいること」

【写真:町田】

新しいことへの挑戦を考えている女性や若者たちへのメッセージ。
「やらない後悔よりはやる後悔」です。選んだ道を進むことで後悔しないよう、自分に正直であることが大切です。自分が真に求めるものを追求することで、多くの支持や成果が後からついてきます」

ボクシングの魅力について。
「私自身、ダイエット目的で始めたボクシングが、今では大きな情熱となっています。体を動かすことの楽しさを知り、それがライフスタイルの一部となり、さらには他人を励ます原動力ともなっています。もしボクシングを始めることに不安を感じているなら、「痛いかもしれない」「怖いかもしれない」という心配を一旦脇に置いて、まずは試してみてください(笑)運動を始めることで得られる楽しさや達成感は、想像以上のものがあるはずです!」

津端ありさ選手は、ヴィジターズボクシングクラブでパーソナルトレーナーとしても活動しています。
ボクシングのトレーニングに興味がある方は、ぜひ体験してみてください。
詳細情報や予約については、ヴィジターズボクシングクラブの公式ウェブサイトをご覧ください。
興味のある方は、以下のURLから情報を確認できます。
http://www.vis-boxing.com/

 

前編はこちら。

津端 ありさ / Arisa Tsubata
埼玉県狭山市出身。2018年ダイエットの一環としてボクシングを始め、才能を開花させ、2019年初出場した全日本女子選手権で初優勝を果たした。2020年東京オリンピックアジア予選に出場を果たすが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で東京オリンピックが1年延期。2021年東京オリンピックへ出場を目指すが、コロナ禍の影響で大会が中止になり、夢への道を断たれる。しかし、その後国立競技場で開かれた開会式に抜擢され、「看護師ボクサー」として注目を集める。

machida 編集者
デジタルクリエイティブ会社に勤務。女子サッカーで15年間活動した後、現役引退後ボディーメイクに奮闘中。自分に合った健康的な食事や日々の過ごし方を模索中。

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