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女性アスリートの進路選択「埼玉西武LL清水美佑」

昨年から決勝戦が甲子園球場で開催され、全国各地の高校で女子硬式野球部が誕生している女子野球。高校までの進路の選択肢は近年爆発的に増えている一方で、大学女子硬式野球部の少なさや、女子選手が高校卒業後に選択できる進路の少なさは女子野球界の課題の一つでもあります

今回は高校3年生で日本代表を経験、早稲田大学に進学しスポーツビジネスを学びながらアサヒトラスト女子硬式野球部のクラブ生として女子野球を続ける選択をした清水美佑選手にお話を聴かせていただきました。

写真提供:埼玉西武ライオンズ・レディース

【清水 美佑(しみず みゆう)】1998年5月8日生まれ。神奈川県出身。投手。
小学校2年生で地元少年野球チームで野球を始め、中学では元女子プロ野球選手で現日大国際女子硬式野球部監督を努める柳理菜の1学年下として狛江ボーイズで共にプレー。女子野球の名門・埼玉栄高校に進学し、3年時には当時唯一の高校生として女子野球W杯に参加。高校卒業後は早稲田大学スポーツ科学部スポーツ科学科に進学。社会人女子硬式野球チーム・アサヒトラストで現役を続け、再び日本代表にも選出。大学4年時に新設された埼玉西武ライオンズ・レディースに移籍し、卒業後の現在もトップレベルでの活躍を続けています。

進路選択に悩む高校生・大学生の女子野球選手やその保護者の方々や指導者の方々に読んでいただきたい話です!

「文武両道」を女子野球界屈指の高レベルで体現

── 清水さんは早稲田大学で勉強をしながら、日本代表選手としてW杯を戦ったり、クラブ選手権でも何度も個人賞を受賞するなど、まさに「文武両道」を体現していると思います。野球と勉学を両立することについての清水さんの考えを教えてください。

清水選手:私の場合、勉強ができたことで結果的に得したことがたくさんありました。『勉強の仕方を知っている』ということも大事なことで、これは野球にも還元できることだと思います。

── 勉強の仕方を知っている。確かに勉強以外の色々なことに活かせることですね。

清水選手:勉強の場合、テストの点数などの結果を重視しがちですが、結果よりも過程が大事だなと。なので、苦手でも諦めずに勉強しようとすることが大切だと思います。野球は頭を使うスポーツで、もちろん女子野球をやる上でも必要なことなので。

── なるほど。清水さんが言うと説得力がありますね…

清水選手:そうですかね…(笑)ただ、女子野球界にはプレーが凄い先輩はたくさんいますが、“私だからこそ言えること”はこれかなと思います。

── 大学では日常的な勉強はもちろん、就活や卒論なども大変だとは思います。卒論・就活と野球の両立という面ではどうでしたか?

清水選手:大学4年の時がちょうどコロナの時期だったので、野球との両立ということがなくてもそもそもが色々難しかった部分はありました。ただ、私の場合は野球をやっていたことによって今の会社と巡り会えたり、卒論の内容も女子野球に関する内容だったので、並行して進めていました。

── スポーツと勉学の両立という面では理想的な素晴らしい形ですね…

清水選手:勉強ができたことで野球の面でも得をすることがあったり、野球をやっていたことで就活・卒論がスムーズにいったり、上手く両立はできていたと思います。

高校3年時に唯一の高校生として参加したW杯での経験と進路選択の決め手

── 清水さんは高校3年生の時にも日本代表としてW杯に参加していますが、大学の進路を決めたのはいつ頃だったんですか?

清水選手:女子プロ野球に行くか、普通の大学に進学するかでずっと迷っていて、決断したのはW杯が終わった後だったと思います。

── やはりW杯での経験は進路選択に影響はあったのですか?

清水選手:そうですね。W杯の試合だけではなく、その前の日本代表合宿なども含めて、少しずつ進路が固まって行ったという感じですね。

── 当時唯一の高校生として日本代表としてW杯に参加。初めてのW杯はいかがでしたか?

清水選手:もちろん高いレベルで楽しく野球をさせてもらったということもあるのですが、みんながいかに女子野球を普及させようと考えながら野球をやっているかということをすごく感じました。それまでは自分のことだけを考えて野球をやっていましたが、女子野球を『拡げる』『支える』側の役割を担えないかなと思ったのはその時からですね。

── それは日本代表の先輩方の姿勢を見て、そう感じたということですか?

清水選手:もちろんそれもあるのですが、当時監督を務めていた大倉さんから学んだことが多かったと思います。大倉監督は『日本代表としての役目』ということを私たち選手に説いてくださっていたことが大きな理由です。

── なるほど。それで女子野球を支える側になるために早稲田大学への進学を選んだと。進路を決めた段階ではご自身のプレーは考えていなかった?

清水選手:そうですね。まずは大学で自分が学びたいことを第一に考えていたので、あまり自分がプレーすることは考えていなかったですね。

── 大学選択の1番の決め手は何だったのですか?

清水選手:『スポーツビジネスを学びたい』ということがまずは一番でした。その中で、色々な大学のパンフレットを取り寄せてみて、一番惹かれたのが早稲田大学のスポーツ科学部スポーツ科学科でした。自己推薦枠で、10月ごろに合格が決まったのですが、一般入試では早稲田の他に、順天堂大学や法政大学とかも考えていました。

── 自己推薦枠というと、どの様な入試なのですか?

清水選手:私の場合は、一次選考が競技歴、二次選考が小論文と面接でした。

── 入試で大変だったという思い出はありますか?

清水選手:ちょうど東京オリンピックでソフトボールと野球の復活が決まったくらいの時に面接があったので、『女子野球を広めたいです』と話すと、『なんでソフトボールじゃないの?』と言われました。プレーしている側としては全く違うものとして考えていますが、やっぱり世間一般ではそういう認識なんだと心が折れました。全然うまく答えられなくて、とりあえず面接官の話を聞いていた記憶があります(笑)

── 面接でもそういったことに気づくきっかけにはなるんですね。清水さんが言っていた『結果よりも過程が大事』ということが分かります。それでは次に、実際に大学に進学してどの様なことを学び、どの様な生活をしていたのかを聞いていきたいと思います。

スポーツマーケティングを専攻し、クラブチームで女子野球を続けた大学生活

── 大学ではどの様なことを専攻していたのですか?

清水選手:ゼミではスポーツマーケティングを専攻していました。一口に『女子野球を拡げる』と言っても、お金を稼ぐという意味や競技人口を増やすという意味合いがありますが、私は特に『いかにして競技人口を増やすか』『女子野球を認知させていくか』ということを積極的に学んでいました。

── 卒論はどの様な内容だったのですか?

清水選手:『女性が野球を始める要因とやめる要因、ソフトボールと野球の転向要因』という内容です。

── 興味深い内容ですね… どの様な結論になったのか、内容を教えていただけますか?

清水選手:まず、野球を始めた要因はソフトボールに比べて兄弟の影響を受けていることが多かったです。野球からソフトボールへの転向要因も高校が遠方になることや金銭的な理由での転向など、野球は環境の影響が大きいということが分かりました。

── なるほど。ソフトボールの場合は違うのですか?

清水選手:はい。ソフトボールから野球への転向要因はほとんどが選手自身の意志で転向しているというデータになりました。ただ、インタビューをした層が野球を続ける環境が今よりも少なかった世代の方も多かったので、今だと少し変わっているかもしれないです。

── 確かに女子野球は近年状況が大きく変わっているので、結果は変わってきそうですね。そういった研究データが継続的に取れていくことができれば、女子野球の発展に向けて何をするべきかが分かってきそうですね。

清水選手:そうですね。大学で色々と学びましたが、未だにどうしたらよいかというはっきりとした結論は見つけられていないので、今も選手を続けながらずっと考えています。

── 大学在学中はアサヒトラストでクラブ生としてプレーを続け、再び日本代表にも選出。アサヒトラストにはどういった経緯で入部したのですか?

清水選手:高校3年時の日本代表で一緒にプレーした志村キャプテンと有坂さんがアサヒトラストにいたので、見学させてもらいました。グラウンドや室内練習場といった練習環境に惹かれたことと、志村さんがすごく格好良かったので一緒に野球をやってみたいという気持ちがあったので、入部を決意しました。

── 大学に通いながら社会人チームにクラブ生として参加。実際に活動してみていかがでしたか?

清水選手:女子野球部ではない会社の方とも接する機会があったので、そこはすごく勉強になったなと思います。学生のうちから社会にちょっとだけ出ているというような。今まではずっと歳の近い人とばかり接していましたが、社会に出るとそうではないので…

── 大学4年次には新しく創設された埼玉西武LLに入団していますが、そこはどういった経緯だったのですか?

清水選手:アサヒトラストには本当にお世話になったのですが、これまでに確立した地位があったので、自分自身そこに甘えている部分がありました。なので、もう一度新しい環境でちゃんと成長したいという思いで、別のチームに移ろうと決めていました。そのタイミングでちょうど埼玉西武LLが新たにできるということを聞き、監督の新谷さんの野球も尚美学園大学と対戦してよく知っていたので、埼玉西武LLへの移籍を決めました。

── なるほど。『新たな環境での挑戦』ということが先にあったということですね。それでは次に、清水さん自身の将来のビジョンや女子野球界全体への考え方や思い、後輩の女子選手たちに向けたメッセージについて聞いていきたいと思います。

『選んだ道を自分自身の力で正解に変えていく努力を』 進路に悩む後輩の女子選手へのメッセージ

── 清水さんは大学卒業後の現在も女子野球界トップレベルの選手として活躍を続けていますが、選手としての今後の目標を教えてください。

清水選手:選手としての最終的な目標は『憧れられる選手になる』ことです。そのためには実力も実績もあげなければならないと思うので、今のチームで活躍して、日本代表選手にもなって活躍したいです。

── 憧れられる選手。清水さんはもう既にそのような存在になっているようにも思えますが、自己採点だと現在はどのくらいですか?

清水選手:全然です(笑)「清水って誰?」って状態だと思います(笑)点数すらつけられないです。特に埼玉西武LLには里さんや出口さんをはじめ、憧れの存在になる凄い選手が身近にいるので、まだまだもっと実力も実績もあげていかなければなと思います。

── 確かに埼玉西武LLは憧れられる選手が多いイメージはありますね。それでは、選手以外の部分も含めての将来的なキャリアのビジョンを教えてください。

清水選手:将来的には女子野球を拡める立場に回りたいと思っていますが、私は表舞台に立つのが向いている方だとは思わないので、裏で色々と動く立場になりたいと思っています。そして、野球をやりたいと思う女の子が環境を理由に諦めることがないような世界・環境を作りたいです。最終目標はそこです。

── 環境を理由に野球を諦めることがない世界… 清水さんの卒論の内容とも繋がってくるのですね。それでは最後に今回のテーマでもある『女子野球選手の進路選択』について、現在進路選択で悩んでいる後輩の女子選手に向けたアドバイスをお願いします!!

清水選手:まずは勉強はしておいて損はないよということです!!結果としてその知識を使うことがなくても何かしらに活かすことはできるので、『勉強はしっかりしましょう』と伝えたいです。

進路選択については、もちろん私もすごく悩みましたし、選択肢が増えた今はもっと迷うと思います。ただ、どっちを選ぶかが大事なのではなく、自分が決めた道を最終的に正解にしていくことが大事だと思っています。選んだ道を正解にしていくことができるのは自分しかいないので。

どちらが正しいかということに正解はなく、『あっちにすればよかった…』という気持ちをゼロにすることは絶対にできないですが、人生をやり直せるわけではないので、どっちを選んでも自分が納得できるような努力をしていくことが正解だと私は思います!!

── 進路についてしっかりと悩むことももちろん大切ですが、『その選択を正解にするための努力』はできていない人も多いかもしれませんね。僕自身も考え方を変えていかなければいけないと思いました。今日は本当にありがとうございました。

清水選手:こちらこそ、ありがとうございました。

女子野球界屈指の文武両道を体現する清水さんは、自らの力で道を切り開き、現在もより高いレベルを目指して挑戦を続けています。現在24歳の清水さんの選手としての活躍はもちろん、女子野球界の更なる発展に向けてどの様な変化をもたらしていくのか、期待が高まります。

近年、日本国内では爆発的な拡がりを見せている女子野球ですが、進路の選択肢はまだまだ少なく、女子野球の普及・発展に向けて課題となっている部分でもあります。清水さんのように自らの力で道を切り開き、選んだ道を正解にしていくということは難しいことかもしれません。それでもこの記事から清水さんの考えや思いが誰かに届き、後悔しない進路選択をする人が少しでも増えることに期待したいと思います

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