女子野球を夢のある世界に! ~大勢の観客の前でプレーがしたい~九州ハニーズの挑戦
近年、女子野球のチーム数や競技人口は増加傾向にあり、高校女子野球は夏の甲子園開催や春の東京ドーム開催でも注目を集めました。また、今夏の全国大会では史上最多となる49チーム(連合チーム含む)が参加するなど、全国各地に女子野球が拡がっていることが伺えます。
今回紹介する九州ハニーズは、福岡を本拠地として2022年から本格的に始動しました。九州ハニーズの立ち上げは川端友紀選手と楢岡美和選手が中心となって行われました。川端選手と楢岡選手は女子プロ野球・アストライアで6年間、社会人チーム・エイジェックで3年間共にプレーをし、今年1月に九州ハニーズの設立を発表しています。
【川端友紀(かわばたゆき)】
1989年5月12日生まれ。内野手。大阪府出身。
[経歴]
和歌山商業高校(ソフトボール)
シオノギ製薬(ソフトボール)
京都アストドリームス(2010-2012)
イースト・アストライア(2013-2014)
埼玉アストライア(2015-2018)
エイジェック女子硬式野球部(2019-)
[日本代表歴]
2012年 第5回女子野球W杯
2014年 第6回女子野球W杯
2016年 第7回女子野球W杯
2018年 第8回女子野球W杯
2021年 第9回女子野球W杯(開催延期)
今回はチーム設立の発案者・川端友紀選手に、
チーム設立までの経緯
選手たちの実際の生活
チームとしての今シーズンの目標
について話していただきました。
また、指導者に就任した宮地監督、小林コーチ、水野コーチにもコメントをいただきました。
Contents
“夢のある世界をもう一度” 野球熱の高い九州の地でゼロからの環境づくり
── 今日はよろしくお願いします。
川端選手:よろしくお願いします。
── まず最初に、九州ハニーズ立ち上げの経緯を教えていただきたいのですが、チーム立ち上げの発案者は川端さんですか?
川端選手:はい、発案したのは私です。もともとチームを作ることに興味があったので。もう一つ大きな目標として『もう一度女子プロ野球リーグのような年間何十試合という規模でリーグ戦ができるリーグを作りたい』という思いがありました。夢のある世界というか、観客の前で試合ができる環境を作りたいと思っています。
── 昨年まで所属していたエイジェックは女子野球界でトップレベルの環境だったと思います。エイジェックを離れて1からチーム作りをする決断に至ったのはどの様な思いがあったのですか?
川端選手:エイジェックで3年間プレーして、まずは日本一をとるという目標を昨年達成することができました。エイジェックでは野球に集中できる環境で3年間やらせてもらったのですが、『自分自身がこの後どう女子野球を盛り上げていくのか』と考えた時に、周りエイジェックのような環境はほとんどなく、やめていく選手も多いということを知りました。そういった選手たちのためにも、良い環境で野球に打ち込めるチームを全国にもっと作りたいと思いました。
── 楢岡さんもその思いに賛同して一緒にチームを立ち上げようとなったのですか?
川端選手:そうですね。本当に最初は「こうなったらいいよね」という会話から始まり、女子野球の今後という話題になり、具体的に何ができるかという話から今年1月のチーム立ち上げまで一緒に行うことになりました。
── 川端さん、楢岡さんは九州にゆかりがあるわけではないですよね?
川端選手:そうですね。全くないです(笑)
── ではなぜ九州を拠点にしようと思ったのですか?
川端選手:九州はソフトバンクホークスを中心に野球熱の高い地域ですが、女子チームが少ないということが分かっていました。また、チームを作る話は女子野球連盟の山田博子さんにも相談をしていて、今年4月から九州リーグが始まるということを教えていただきました。リーグ戦は女子野球が九州でも盛り上がっていくきっかけになることなので、ここで新たにチームができれば九州全体にも影響を与えて軌道に乗れるのではないかという思いもありました。
── なるほど。全く知らない地でのスタートですが不安はなかったのですか?
川端選手:そうですね。福岡・九州という新しい地にワクワクしていました。『どうせやるならゼロから』と。もちろん不安もあったのですが、どちらかというと“楽しみ”という思いの方が強かったです。
全国制覇から選手2人での再スタート 選手集めや環境づくりの苦労とは?
── 今季から活動をスタートしていますが、選手は何人集まったのですか?
川端選手:13人います。選手がどれだけ集まってもらえるかということは本当に読めないことで、この部分が1番不安なところでした。1月の段階では楢岡選手と二人で九州に行ってみて、もし選手が集まらなかったら1年間は準備期間としてやろうという話をしていたくらいだったので。トライアウトに来てくれた選手たちを見て、すごい個性あふれる良い選手たちが来てくれたので、なんとか今年からスタートできるなとすごく嬉しかったですね。
── 船越選手、小島選手、深海選手のエイジェックから移籍した選手たちは、川端さん・楢岡さんと一緒にプレーしたいという思いでチームに合流したという経緯ですか?
川端選手:3人はチームを作るという話をした時に、「一緒についていきたいです。」と話してくれました。しかし、新しい地でゼロからだから絶対大変なことは分かっており、エイジェックがすごく環境が良いということもわかっていたので、その子達を連れていくということは私たちからは絶対に言えませんでした。それでも3人は「ついていきたいです」と言ってくれたので、ちょっとでも環境の良いところでやらせてあげないとだめだなと。きてくれたことは本当にありがたいことなので、感謝しかないですね。
── 他にも各地から良い選手が集まった印象ですが、選手集めをしてみてどの様なことを感じましたか?
川端選手:本当に野球をやめようかなと思っていた選手だったり、九州でチームができるならやろうという選手がきてくれました。チーム立ち上げの目的が「環境がなくて野球をやめてしまう選手のため」だったので、実際に選手と面談してみて「九州で野球を続けられる環境がないなら諦めようかな」という選手がこれだけいたんだなと改めて実感しました。
── なるほど。「選手の受け入れ先を作りたい」という目標に対しては1年目からある程度は達成できているということですね?
川端選手:はい。特に百田選手は「高校で野球をやめようと思っていましたが、ハニーズができたのでもう一度やろうと思いました。」と話してくれました。百田選手だけではなくて、他にもそういってくれた選手はいたので、本当にチームを作ってよかったなと思いました。
── 今年から活動を始め、先日の子規杯では優勝。川端さんがピッチャーを務めていたことも印象的でしたが、実際に戦ってみていかがでしたか?
川端選手:いや〜…本当に一杯一杯でしたね。3日間で5試合。ピッチャー専任が高校を卒業したばかりの百田選手と、硬式野球初挑戦の上杉選手の2人だったので、私、楢岡選手、長池選手が野手と兼任しながら本当に総力戦で全員で戦い抜いた結果が優勝だったのかなと思います。
── ピッチャーはいかがでしたか?
川端選手:チーム事情によるものではありますが、“新しい挑戦”と捉えているので、マイナスなイメージはなく、良い勉強・経験をさせてもらっているなと。やるからにはピッチャーとして責任を持って投げれる選手になっていこうと前向きな気持ちでやっています。
── HPやユニフォームを見ると、スポンサー企業が多いことも目立ちます。“地元”九州の方々はハニーズに協力的という印象ですか?
川端選手:そうですね!1月からスポンサー営業を楢岡選手と一緒に回って、ユニフォーム代や遠征費に関しては選手に負担を掛けないでできているので本当に感謝しかないですね。九州の方々はすごく広がりがあって、最初の知り合いの方から紹介でどんどん繋がっていきました。冷たく「無理です」と言われることもなく、「どうにかして協力したい」と言ってくださる方ばかりです。
── やはり野球熱の高い地域という感じがありますね。そういった方達の応援はありがたいですよね。
川端選手:はい!女子野球を「夢のある世界に」「子供たちにとって憧れとなる世界に」ということに賛同して応援してくださっているので、私たちはその期待に応えられるように頑張るしかありません!!その目標を実現することで、応援してくださっている方に返していきたいなと思います。
── その他にチームづくりをする上で苦労したことはありましたか?
川端選手:お仕事のところも最初は大きな課題でした。野球に集中できる環境を作りたいとは思っていましたが、仕事もしないと食べていくことすらできないので…
── 確かに野球だけで生活することはできないですよね。仕事と野球のバランスはどの様になったのですか?
川端選手:なるべく野球の時間を取れるように、平日の午前中で週2-3日は練習をして午後から出勤というような形で、土日は完全に試合や遠征を優先して休みにしてくれる企業さんをなんとか選手全員分見つけることができました。
── 仕事の部分でも地元の企業さんの協力があるんですね。お仕事はどのような内容なのですか?
川端選手:本当に色々な職種があります。柔道整復師の資格を持っている選手は整骨院で働いていたり、スポンサーで家具制作会社のアダルさんの工場で働いていたり、グリーンクロスという工事現場で使うポールを作っている会社の事務で受付をしたりしています。
── 職種や職場に関しては選手からの希望も聞いているのですか?
川端選手:そうですね。全員が希望通りにはいきませんが、なるべく選手の希望を聴きながら「将来こういう仕事をしたいです」ということを参考にしています。例えば、小島選手と深海選手は教員免許を持っていて「将来女子野球の指導者になりたいです」と話しているので、新しくできるステップ高校で、先生のサポートをしながら野球の指導をするお仕事をしています。将来的にも繋がるようなお仕事を紹介できたらなと思いながら動いていました。
古巣エイジェックの様な環境を全国に!! 川端選手が描く九州ハニーズの数年後
── 今後、チーム運営をしていきたいなどのビジョンはありますか?
川端選手:もちろん、チームとして軌道に乗った時に人数をもっと増やしていきたいという思いはあります。そして中学生のユースチームを作りたいという思いもあります。今、高校はすごく増えてきていますが、中学・大学が課題なのかなと思っているので。数年後、チームが軌道に乗った際にはそういう活動もしていけたらなと思います。
── エイジェックもユースチームを持っていましたが、目指す形としてはエイジェックに近いイメージですか?
川端選手:そうですね。エイジェックの様な形が全国各地に増えていけばと思っているので、まずは目標なのかなと思います。
── なるほど。その様なチーム作りに向けて、今年1年間はどの様なことを目標としていきますか?
川端選手:「ハニーズって格好良いよね」「すごい選手がいるよね」と言われるチームづくりをしていきたいと思っています。もちろん日本一という目標もありますが、勝ち負けよりも見本になるようなチームづくりをしていきたいので、まずはその部分の成長をしていきたいなと思います。
── 最後に、九州ハニーズに注目している方々に向けてメッセージをお願いします。
川端選手:選手が全員揃ってから2ヶ月に満たないできたばかりのチームですが、本当にみんな仲が良くて、チームとして良い雰囲気のチームだなと思っています。成長しかない、伸び代しかないチームだと思うので、チームをゼロから作り上げていきたいと思います。その中で「こういうこともしなければいけないんだよ」というような裏の部分も含めてSNS・YouTubeで発信していきますので、ゼロから作り上げていく過程を一緒に見守りながら、応援していただければなと思います!!
元プロ野球選手の3名が監督・コーチを務める 九州ハニーズ指導者紹介
監督には昨年までエイジェックでヘッドコーチを務めて、両選手と3年間活動を共にした宮地克彦氏が就任。
【宮地克彦(みやじかつひこ)】
1971年8月28日生まれ。大阪府出身。
[野球歴]
尽誠学園高校
埼玉西武ライオンズ(1994-2003)
ダイエー・ソフトバンク(2004-2006)
富山サンダーバーズ(2007)
[指導歴]
ソフトバンク二軍育成担当コーチ(2008-2010)
西武二軍外野守備走塁コーチ(2011-2013)
西武一軍打撃コーチ(2014-2016)
栃木ゴールデンブレーブスヘッドコーチ(2017-2018)
エイジェック女子硬式野球部GM(2019)
エイジェック女子硬式野球部ヘッドコーチ(2020-2021)
九州ハニーズ監督(2022-)
宮地監督コメント
指導者としてこれまで、プロ野球、社会人野球、大学野球、高校野球、中学生、小学生、幼稚園、そして女子野球と全ての世代を指導してきました。その経験の中で指導者としての有り方、伝え方、導き方が少し見えて来た気がします。
教えるのではなく、気付かせる!
伝わらないのは、自分の言葉選びが悪いだけ。選手はバットでヒットを打ちます。私は言葉(伝え方)でヒットを打ちに行きます!
選手に対して“やらせる”は、しません、導きます。
選手には野球が好きで、成長したい気持ちさえあれば十分です。
あとは私が充実感と達成感を与えるだけです。
女子野球には私が忘れかけていた、スポーツは楽しむもの、勝つことだけが全てではない!色々気付かされました。
監督と選手に上も下もなく、選手と共に同じ目線から成長していきたい!九州ハニーズはそんなチームです。
日本一を目指す!そんな目標だけではなく、「拡がれ女子野球」を合い言葉に、今シーズンは九州全体の女子野球チームを増やしたい!九州でリーグ戦を盛り上げたい!そして各クラブチームにユース(中学生)の女子硬式野球チームを作ってもらいたい!
そんな思いで今シーズンを戦っていきます。応援よろしくお願いします。
投手コーチは元ロッテの小林亮寛氏、バッテリーコーチは元ヤクルトの水野祐希氏が務める。
小林コーチコメント
初めて女子野球チームに携わらせて頂くこととなり手探りなことが多いですが、女子選手の更なるレベルアップを図ることで、選手達が野球をしている子ども達の憧れの存在となれるよう貢献したいと思います。また、選手達の野球人生がより豊かなものになるよう寄り添っていきます。
水野コーチコメント
九州ハニーズが九州だけでなく、全国の野球少女の目標、希望となれるよう、監督コーチ、選手、ファンの方々と共にチームの成長、チャレンジが全員で楽しめるサポートしていきたいと思っております。毎日、ワクワクできることに感謝。九州ハニーズをよろしくお願いいたします。
福岡県を拠点として、今年始動した九州ハニーズ。レジェンド2人が牽引するチームは今年の女子野球界にどの様なムーブメントを巻き起こすのでしょうか。
女子野球があまり盛んではない九州の地で、ゼロからの再スタート。
九州ハニーズの選手たちの姿がこれからの九州地方の女子野球を作っていくことでしょう。
そして選手としても新たなことに挑戦し続ける川端選手、楢岡選手の活躍に目が離せません!!